建設工事受注動態統計調査不正問題 その① 統計法について

建設工事受注動態統計調査不正問題 その① 統計法について

こんにちは、T研究員です。

先日、国土交通省が国の基幹統計である「建設工事受注動態統計調査」の結果を不正に改ざんした「事件・問題」がありました。

そこで、日本の統計はどうなっているのか、どのように信頼性が担保されているのかをまとめました。(手法などの方法論ではなく、制度的な面で)

今回はその第1回で、統計の真実性確保のために公布されている「統計法」についてです。

■統計法

国の行政機関・地方公共団体などが作成する統計は、統計法(昭和22年公布平成19年改訂:法律第53号)によって、統計の真実性を確保し、統計調査の重複を除き、統計の体系を整備し、及び統計制度の改善発達を図ることが示されています。

統計法では、体系的・効率的に調査を行うために「公的統計の整備に関する基本的な計画」(おおむね5年にわたる具体的な取組の工程表)と統計委員会の調査審議やパブリックコメントを行うこととされています。

また、統計調査の被調査者の秘密の保護についても法的に示されています。

出典:総務省、「統計について」
   https://www.soumu.go.jp/toukei_toukatsu/index/seido/1-1n.htm

■基幹統計

行政が行う統計の中でも特に「基幹統計調査」は、公的統計の中核となる統計のため、正確な統計を作成する必要性が特に高いことなどを踏まえ、例えば以下のような、一般統計調査にはない特別な規定が定められています。(罰則を含め)

●報告義務

 基幹統計調査に対する正確な報告を法的に確保するため、基幹統計調査の報告(回答)を求められた者が、報告を拒んだり虚偽の報告をしたりすることを禁止しており(第13条)、これらに違反した者に対して、50万円以下の罰金が定められています(第61条)。

また、統計法60条2号では「基幹統計の作成に従事する者で基幹統計をして真実に反するものたらしめる行為をした者」は、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金に処すと定められている。

●かたり調査の禁止

 被調査者の情報を保護するとともに、公的統計制度に対する信用を確保するため、基幹統計調査について、その調査と紛らわしい表示や説明をして情報を得る行為(いわゆる「かたり調査」)を禁止しており(第17条)、これに違反した者に対して、未遂も含めて2年以下の懲役又は100万円以下の罰金が定められています(第57条)。

●地方公共団体による事務の実施

 基幹統計調査は、全数調査や大規模な標本調査として行われることが少なくなく、国の職員だけで、限られた期間内に調査を円滑に終えることは困難です。そこで、調査を円滑かつ効率的に実施するため、調査事務の一部を法定受託事務として、地方公共団体が行うこととすることができるとされています(第16条)。地方公共団体が行う事務の具体的な内容は、個々の基幹統計調査ごとに、政令(国勢調査令、人口動態調査令及び統計法施行令)で定められています。

そのため、上記にあるように、今回の「建設工事受注動態統計調査」の不正行為は、統計法60条2号の法令違反となり、罰則の対象となりうる事件といえます。

■統計法違反・懲罰事例

過去には、この統計法違反で逮捕者が出た事例があります。

愛知県・東浦町の人口水増し:統計法違反容疑、前副町長を逮捕

2013-03-24 毎日新聞 中部朝刊 27頁 社会面
 市制移行条件の人口5万人を満たすため、2010年の国勢調査で調査票を改ざんして約300人分を水増ししたとして、愛知県東浦町の前副町長、O 被告(63)が統計法違反の疑いで県警に逮捕、起訴された。当時の企画財政部長や企画課長ら職員5人も書類送検された。

そのほかにも、1947年8月に実施された農林水産業調査(指定統計第3号)で虚偽報告を行った農家が懲役3ヶ月の量刑を受けたり、1970年代初頭の北海道羽幌町町長が人口水増しを行い懲役を受けるなど、統計作成者側の不正行為により懲罰を受けた事例が多数あります。

出典:国立国会図書館
   https://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000140724

しかし、2019年に発覚した「毎月勤労統計調査」の不正問題では、法令違反としての逮捕者は出ていません。
このことについて、法律の専門家は、以下のような見解を示しています。

「長年の組織的な不正のため、個人での是正が困難であり、個人の責任を問えない可能性がある」

 出典:弁護士ドットコムニュース:厚労省「不適切な統計」問題、逮捕者がでる可能性は?
    https://www.bengo4.com/c_1017/n_9113/

■まとめ

日本では、公的な統計の真実性確保のために統計法が制定され、統計を調査作成・実施の際の計画や懲罰について定められている。しかし、実態はその法令は形骸化しており、真実性追求や不正チェック機能まで果たせていなかったのが実情です。

2019年の「毎月勤労統計調査」もそうですが、今回の「建設工事受注動態統計調査」も基幹統計であり、日本のGDP等様々な加工統計(二次統計)に利用されており、その影響は計り知れません。これらのデータを用いて現に国の政策の意思決定が行われているわけで、誤った施策に導いた責任は多大だと思います。

全国的な調査でも、実はその計画・運営に携わる行政担当者や民間調査担当者(調査員等除く)の数は少なく、何か異変が発生しても内々の議論で終わってしまう場合があります。そのため、このような事態を防ぐためにも「統計を所管する総務省「や「統計法にも記載のある統計委員会の調査審議」や、あるいは第3者が統計の作成や結果に対して厳としたチェックを行う必要があると考えます。

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